夜景
高い家根の上で猫が寢てゐる
猫の尻尾から月が顏を出し
月が青白い眼鏡をかけて見てゐる
だが泥棒はそれを知らないから
近所の家根へひよつこりとび出し
なにかまつくろの衣裝をきこんで
煙突の窓から忍びこまうとするところ。
萩原 朔太郎
夜景というと、ニューヨークの摩天楼や函館など、光が煌めく夜景を想起する。戦前の夜の景色はどんなものだったのだろう。今よりずっと暗くて静かで、空が高くみえただろう。くるんとした猫のしっぽに月の丸み。弧月かもしれないし、満月かもしれない。青白い月光に照らされたユーモラスなサイレント映画の一幕のよう。
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