草の上
かなかなはどこで啼いてゐる?
林の中で、霧の中で
ダリアは私の腰に
向日葵は肩の上に
お寺で鐘が鳴る。
乞食が通る。
かなかなはどこで啼いてゐる?
あちらの方で、こちらの方で。
三好達治
昨日からの続き。三好達治の『測量船』より「草の上」
一日の終わりにお送りする一節の言の葉。
草の上
かなかなはどこで啼いてゐる?
林の中で、霧の中で
ダリアは私の腰に
向日葵は肩の上に
お寺で鐘が鳴る。
乞食が通る。
かなかなはどこで啼いてゐる?
あちらの方で、こちらの方で。
三好達治
昨日からの続き。三好達治の『測量船』より「草の上」
うば玉の 夢にぞ見つる 小夜衣 あらぬ袂を 重ねけりとは
後深草院 『とはずがたり』後深草院二条 より
後深草院は鎌倉時代中期の天皇。後深草院二条は、後深草院に仕えた女房で「とはずがたり」の作者。後深草院の寵愛を受けているにも関わらず、二条は「雪の曙」と呼ぶ貴公子とも深い関係にあった。そして、その事実を知った後深草院が二条への手紙とともに送ったのが、この和歌。
男性の嫉妬は恐ろしい。しかも、この場合、ただの嫉妬では終わらない。後深草院は嫉妬しながらも、劣情を燃え上がらせていた。後深草院の二条に対するアブノーマルな感情を物語る一首。
とはずがたりの人間関係を知りたい人はこちらをどうぞ。 Wikipediaとはずがたり
もっと詳しく知りたい方はこちら。ちょっと長め。967夜『とはずがたり』後深草院二条|松岡正剛の千夜千冊
山里なるところにありしをり、艶なる有明に起き出でて、まへちかき透垣に咲きたりしあさがほを、「ただ時のまのさかりにこそあはれなれ」とて見しことも、ただ今の心地するを、「人をも花は、げにさこそおもひけめ、なべてはかなきためしにあらざりける」など、思ひつづけらるることのみさまざまなり。
有明の 月に朝顔 見し折も 忘れがたきを いかで忘れむ
建礼門院右京の大夫
建礼門院右京大夫は、平清盛の娘である建礼門院徳子に仕えた女房。清盛の孫、平資盛の愛人でもあった。昨日からの続き。朝顔は、花の朝顔と恋人の朝の顔がかけられている。昨日の一首の次に、この句が続けられている。忘れがたい恋の相手、資盛を思って詠った一首。
rosie
Well, I'm sitting on a windowsill, blowing my horn
Nobody's up except the moon and me
And a lazy old tomcat on a midnight spree
All that you left me was a melody...
Tom Waits
これまでと趣向を変えて、今日は歌詞、そして英語の一文から。酔いどれ詩人こと、トムウェイツのデビューアルバム"Closing Time"に収められている"Rosie"の出だし。昨日に引き続き、猫と月の取り合わせの詩を選んでみた。騒々しい夜中の喧騒の中で、誰にも気づかれず佇む自分と月。ぜひとも甘い歌声とともに歌詞を味わってほしい。下はYouTubeから。その内に削除されてしまうかもしれないので、聴くならお早目に。
鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな
与謝野晶子
鎌倉の大仏を詠った与謝野晶子の一首。大きな仏像に見惚れていると目に入ってくる、青々とした木々。仏像を見上げた時の青空と、緑の木立とその木陰。青と緑、日差しと影、色彩と光のコントラストを感じさせてくる。
与謝野晶子も見惚れた鎌倉の大仏様を拝顔したい方はこちら(高徳院-wikipadia)。確かに整った顔立ちをしていらっしゃる。
五月山 梢を高み ほととぎす 鳴く音そらなる 恋もするかな
紀貫之 『古今和歌集』
旧暦の五月は、梅雨の頃。瑞々しい初夏の梢に響くほととぎすの鳴き声。けたたましさすら感じる甲高い鳴き声は恋の激しさに通ずる。ほととぎすの声が響く「空」と恋をして空ろになった心を表す「空」がかかっている。
ほととぎすの声がわからないという方はこちら(サントリーの愛鳥活動 - 日本の鳥百科のページ)。どこかで聞いたことがある人も多いはず。
ともすれば 死ぬことなどを 言ひ給ふ 恋もつ人の ねたましきかな
柳原白蓮 『踏絵』
大正三美人の一人、夫への絶縁状を新聞紙面で公開し、センセーショナルな衝撃を与えた白蓮事件の当事者でもある柳原白蓮の短歌。七月十日の原阿佐緒の短歌と似通うところが多い。原阿佐緒のものは皮肉で自嘲的だが、柳原白蓮のものは直情的。姦通罪で訴えられるリスクを冒してまでも、年下の恋人と駆け落ちした白蓮の激しい性格が感じられる。
ひきのけて、空をみあげたれば、ことに晴れて、浅黄色なるに、ひかりことごとしき星のおほきなる、むらなく出でたる、なのめならずおもしろくて、花の紙に、箔をうち散らしたるによう似たり。こよひはじめてみそめたる心ちす。さきざきも星月夜みなれたることなれど、これはをりからにや、ことなる心ちするにつけても、ただ物のみおぼゆ。
月をこそ ながめなれしか 星の世の
ふかきあわれを こよい知りぬる
建礼門院右京大夫 『建礼門院右京大夫集』
建礼門院右京大夫は建礼門院徳子に仕えた女官であり、平清盛の孫、資盛の恋人でもあった人。平家のの没落により、主人である徳子は出家し、大原へ。恋人である資盛は壇ノ浦で海の藻屑に。すべてを失った右京大夫は、兄の元へ身を寄せるのだが、その時に詠まれた和歌。雪降る夜に、布団をはらいのけて、空を見上げると、和紙に箔を散りばめたような星が瞬き、その美しさに気がつく。
昨日の天の川に続き、今日も星の歌。和歌に添えられた詞書の描写が美しい。