草の上
鵞鳥は小径を走る。
彼女の影も小径を走る。
鵞鳥は芝生を走る。
彼女の影も芝生を走る。
白い鵞鳥と彼女の影と
走る走る――走る
ああ、鵞鳥は水に身を投げる!
三好達治
七月三十日、七月三十一日、そして昨日からの続き。三好達治の『測量船』より「草の上」
草の上
野原に出て坐つてゐると、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
たしかな約束でもしたやうに、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
野原に出て坐つてゐると、
私はあなたを待つてゐる。
さうして日影は移るのだが――
かなかなはどこで啼いてゐる?
林の中で、霧の中で
ダリアは私の腰に
向日葵ひまはりは肩の上に
お寺で鐘が鳴る。
乞食が通る。
かなかなはどこで啼いてゐる?
あちらの方で、こちらの方で。
池のほとりの黄昏たそがれは
手ぶくろ白きひと時なり
草を藉しき
静かにもまた坐るべし
古き言葉をさぐれども
遠き心は知りがたし
我が身を惜しと思ふべく
人をかなしと言ふ勿れ
鵞鳥は小径を走る。
彼女の影も小径を走る。
鵞鳥は芝生を走る。
彼女の影も芝生を走る。
白い鵞鳥と彼女の影と
走る走る――走る
ああ、鵞鳥は水に身を投げる!
0 件のコメント:
コメントを投稿